2024.04.08

学生の論文・調査報告が世界を動かす

経済学部4年 棚橋愛梨咲

ベトナムでの光景が経済学を学ぶきっかけに

私が世界の貧困問題に向き合うきっかけになったのは、高校時代に経験したベトナム研修でした。ベトナムは1986年に打ち出した、市場経済システムの導入と対外開放化を柱としたドイモイ政策、2000年前後から活発化した民間資本の自由化によって経済が発展してきた国です。私が派遣された学校に通うベトナム人生徒は、裕福な家庭の子どもがほとんどでした。しかし、街の市場に出かけると、みすぼらしい身なりの子どもたちが働いていたり、物乞いをしていました。これほど極端な貧富の差を目の当たりにしたことがなかった私は「どうして格差ができるのか。この国のお金の流れはどうなっているのか」と疑問に感じ、貧困を経済学の視点から学ぼうと経済学部への入学を決めました。

リアルな社会課題に取り組んで経済学は身につく

経済学部に入って勉強をするうちに、途上国の経済について探究する開発経済学という学問領域があることを知り、「これこそ私の学びたかったものだ」と思い、その分野の第一人者である栗田匡相先生のゼミに入りました。栗田先生は「経済学はただ学内で勉強をするだけでなく、リアルな社会課題に取り組んではじめて身につく」と常々おっしゃっています。2年生の時には、ゼミで兵庫県丹波篠山市の関係人口を増やす政策を考えるプロジェクトに取り組みました。丹波篠山市のような地方では、年々地域のコミュニティが衰退しています。日本の地方の現状と問題点を知るとともに、現地調査の方法を学ぶことができました。

貧困の実態を知るためにマダガスカルで調査

3年生の7月末からゼミの仲間とともに10月半ばにかけて、海外での調査やインターンシップを体験しました。調査の対象になった国はマダガスカル。インド洋西部の島国で、世界最貧国の一つに位置づけられています。栗田ゼミは長年にわたり、同国の家計調査や子どもたちへの教育支援や学習能力の測定、健康に関する調査などを行っています。目的は、開発経済学の研究成果を生かして貧困の連鎖を断ち切り、貧しい人たちの生活を少しでも良いものにしていく施策を考えるためのデータ収集になります。私たちはマダガスカル語が話せないため、英語を話せる現地通訳者に同行してもらい、農村を一軒一軒訪問。家族構成や収入、支出、家族の身長・体重、学校に通っているかなどを聞き取りました。

現地に行き、実際に見ないと本当のことは分からない

貧困の連鎖とは、親世代が貧しいと、子ども世代が大人になっても貧しいままになってしまうことです。貧しさから子どもに教育を受けさせずに労働に従事させると必要な知識や技能を学ぶことができず、大人になった時に低収入の職業にしか就けなくなります。現地調査でも、家の仕事の手伝いや子守りに時間を取られ、学校に通いたくても通えない子どもがいる実態を目の当たりにしました。日本での事前授業で、「ブローカーが適正な価格を知らない農家から米を安く買いたたき、市場で高く売っている」という論文を読んだのですが、実際には、そもそも米の生産量が非常に少なく、ブローカーに売るほどの収穫量が無いことが分かりました。現地に行かないと、本当のことは分からないと実感する機会になりました。

学生でも貧困対策に貢献できると実感

帰国後、収集したデータを集計・分析し、調査報告書を作成。この調査の協力先である国際協力機構(JICA)に報告しました。ここ数年のコロナ禍で最新のデータがなかったこと、きめ細かな調査を行ったこと、その結果を基に的確な分析がなされていることなどが、高く評価されました。JICAはこの調査報告を今後立案する経済・教育・保健の支援策に生かしてくださるとのことでした。マダガスカルの調査を通して、学生である私たちが手掛けた一つの論文や報告書が国や支援機関を動かし、困っている人を救うことにつながる可能性があることを実感。学術研究の意義を知り、他の国・地域の貧困についても学びたいという意欲がかき立てられました。将来はこの学びを生かし、貧困国や途上国と先進国をつなぎ、人々の生活がより豊かになるような仕事がしたいと考えています。

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