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研究成果の下には無数の失敗が埋まっている
工学部長田典子 教授【後編】

ピアニストを夢見たものの、自分のレベルを知って挫折
私が子どものころになりたかったのはピアニスト。今でも音楽は大好きですが、これは子どものころにピアノやエレクトーンを習い、音楽に親しんだことが大きな理由です。練習のかいもあって地元の中では演奏技術はトップクラスになり、高校生のときにプロのピアニストのレッスンを受けることになりました。ただ、そこで私の自信は木端微塵になります。そのピアニストのもとには、ピアノ演奏でテレビに出ているような人や各種コンクールで受賞歴のあるような人がたくさんいたのです。地元で「ピアノがうまい」と誉められて有頂天になっていた私は、自分の実力のなさを思い知らされました。「大学受験があるから」という理由をつけてピアノのレッスンに通うのを辞めてしまいました。
理学と工学の違いに悩み、仕事ができず落ち込む日々
当時の私は音楽とともに数学が好きでした。「数学だったら続けていけそうだ」と思い、大学は理学部に入学。卒業後、大手電機メーカーの研究所に研究補助員として入社しました。理学部は物事の本質を解明するための方法論を重視しますが、工学は結果がすべて。ものづくりや物理に興味がなかったのにメーカーの研究所に入ってしまった私は、この考え方の違いに居心地の悪さを感じていました。製品の色ムラやキズを検出する装置をつくっていましたが、成果が上がらず落ち込んでいる私に、ある先輩から「モノをつくる前に数学でしっかりシミュレーションをしたら、失敗も少なくなる。君も得意の数学を生かして仕事をすればいい」とアドバイスされ、気を取り直して仕事に取り組みました。

真珠の鑑定装置との出会いが研究者になるきっかけ
検査機器を担当していたことから、あるとき私は真珠の鑑定装置の開発を依頼されました。当時の真珠は鑑定士の勘と経験だけで鑑定され、品質の判断基準があいまいでした。ちょうどそのころある学会で、音楽を聴いたときに人がどう感じるかを分析する研究が始まっていました。私は「真珠を見て人がどう感じるかが分析できれば、鑑定装置の開発に役立つはず」と思い、会社に研究を提案。しかし、このときは会社が感性の研究に興味がなく却下されました。あきらめきれない私は、会社に隠れて研究を続け、その結果をまとめた「感性計測技術」を学会で発表したところ、「感性を数値化することができるはずがない」が定説だった学会は大騒ぎになりました。学会で一躍注目された私は、社会人から大学院に入学。研究者の道を歩み出し、現在にいたっています。