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脳の内部を「見える化」。認知症の原因を解明したい
生命環境学部矢尾育子 教授【前編】
多彩な“イメージング”を用いて脳内の状況を把握
生化学、分子生物学、細胞生物学、分析化学など、様々な手法を用いて脳の研究をしています。具体的にはシナプスの分子に着目し、脳内の伝達、調節への関与を解析し、記憶・学習のメカニズムを明らかにすることを目的にしています。この研究の成果は、認知症の発症や進行を遅らせることにつながるもの、そして、将来的には、治療ができないとされている認知症の治療法に寄与するものと考えています。研究で力を入れている手法はイメージング、簡単に言えば「目で見えるようにすること(可視化)」です。さまざまな技術を用いて、脳内ではシナプスの分子がどのようにはたらいているのか、どんな物質があるかなどを画像にして「見える化」。それを基に認知症やその他の疾患、異常の原因解明や脳の働きのメカニズムの解明を行っています。認知症克服へ道筋をつける研究成果を上げる
私たちの研究成果の一つがアセチルコリンの脳内分布を質量顕微鏡法という方法で初めて明らかにしたことです。アセチルコリンは重要な神経伝達物質。アルツハイマー型認知症では、脳の中の神経細胞が減っていくのですが、アセチルコリンをつくる神経細胞も減少し、その結果、アセチルコリンの量も減ってしまいます。アセチルコリンはアセチルコリンを分解する酵素によってすぐに分解され、なくなってしまうため、どれくらいの量がどのように分布したのかを把握することが難しい状況にありました。これを「見える化」することに成功したのです。アセチルコリンの挙動がわかれば、アセチルコリンを分解する酵素の働きをどこで抑えればよいかを考えることができるので、アルツハイマー型認知症治療薬の開発に寄与すると期待されます。
※左図 質量分析イメージングで検出されたマウス脳のアセチルコリンの分布
(上)脳に豊富に含まれる脂質の像を比較のために示した。脂質が多く含まれる部分が白く浮かびかがっている。(左下)MS/MS測定で得られたアセチルコリンの像。(右下)形態の比較のために生態に多く含まれる脂質の像を重ね合わせた。アセチルコリン作動性神経細胞の終末に多く存在することが分かる。Anal Bioanal Chem (2012) 403:1851-61より引用
ゼミ生は自身の興味に沿って研究テーマを選択
私は2019年4月に関西学院大学に赴任しました。私の研究室を希望する3年生の学生には、まず研究室セミナーに参加してもらいます。4年生の発表を聞き、実験の進め方を理解します。また、英語の論文を3年生から読み、4年生からの研究に備えます。研究テーマは私の研究分野の中から興味があるものを選んでもらう形で3年生のうちに決定。その一例が不飽和脂肪酸の脳に与える影響。摂取すると認知機能が回復すると言われている不飽和脂肪酸は、健康食品などにも使用されていますが、効果があることは結果から導き出したに過ぎないため、そのメカニズムの解明をめざすというものです。学生には視野を広げるために、他の学生の研究にも興味を持つように指導しています。
恵まれた実験環境で研究をやり遂げて欲しい
以前勤務していた医科系の大学では、研究室にいるのは教員と研究スタッフ、大学院生がメインで、学部生は講義や研修のため研究室ではなく大学の他の教室で過ごすことがほとんどです。それに比べると、関西学院大学では卒業研究を行う学部学生が研究室にたくさんいるので、活気がありますね。研究に必要な専門の機器や基本的な実験で使うような設備機器は揃っています。また、医学部では研究のサポートを行う専属のスタッフが配置されていることが多いですが、関西学院大学は学生の教育が第一であり、学生実習をサポートする専属のスタッフが活躍してくださっています。学生が卒業研究で自分のテーマを持つまでに実習で十分なトレーニングを受けることができ、学生の研究環境として恵まれていると思います。そんな環境の中で研究室の学生の皆さんには、一つのテーマをやり遂げる経験を積んでもらいます。この経験は自分自身の成長と自信につながり、就職活動の際にもアピールポイントになるはずです。