Research 研究

いかに生きるかを問い、生きる意味を考える

人間福祉学部藤井美和 教授【前編】

いかに生きるか、「いのちの在り方」について考える

 今ここに生きている私たちは、「生」の中にありながらも、いつか必ず死を迎える存在であるということを知っています。しかしながら私たちは、日常生活の中で、生きること死ぬことについて考える時間をほとんど持っていません。死生学は「死」のみを対象にする学問ではなく、「死」に焦点を当てることで見えてくる「生」、つまり、いかに生きるかについて学び、いのちの在り方について理解を深める学問です。私の研究室では、生と死にかかわる領域で起こっている諸問題について、それらがどのような死生観、価値観を背景として起こっているのかを明らかにしながら、いのちの在り方について考えます。決して難しいことではなく、まずは学生自身がどのように問題を捉えているかを自己覚知することから始めます。

死生観、QOL、喪失、生命倫理など多彩な研究トピック

 研究の対象となるトピックは、さまざまです。死生観、QOL、死にゆく人の心理、ホスピスケア、喪失・グリーフワーク、自殺、デス・エデュケーション、そして安楽死や出生前診断などの生命倫理にかかわるトピック。またスピリチュアリティは、最もホットな研究テーマの一つといえるでしょう。私はWHOの「健康の定義改正案」で示されたスピリチュアリティの研究にも関わってきました。人は、身体的、精神的、社会的に満たされていても、「何のために生きるのか」というスピリチュアリティ(霊的・実存的領域)が満たされていなければ、健康とは言えません。「生活の質」(生活の豊かさ)よりむしろ「人生の質」(人生の豊かさ)に目を向けて、いのちの在り方を見つめる学際的学問-それが死生学です。
 

「死の疑似体験」を通して生き方を問い直す

 私の研究の一つに、死生学教育のプログラム開発というものがあります。そのプログラムの一環として、死生学の授業の中で、「死の疑似体験」というワークショップを実施しています。まず学生たちは、自分にとって大切なもの4種類、「形のある、目に見える大切なもの」「大切な人」「大切な活動」「形のない、目に見えない大切なもの」を、それぞれ3つずつ紙に書き出していきます。そして自分自身が重い病気になり、死んでいく過程で、手放していくものを選び、その紙を一枚ずつ破っていくというものです。死にゆく過程で何が支えになったのか、自分にとって大切なものは何だったのか、学生たちはそれぞれ真剣に死に向き合い、そこから大切なものへの気づきを得て、自分の生き方を問い直します。

生きるうえで何が本当に大切なのかを見つけて欲しい

 これから学ぶ皆さんには、生きるうえで「本当に大切なもの」を見つけて欲しいと思います。大学での学問はすべて、人間とは何か、この世界とは何かという問いにつながっています。ですからどんな学びも、自分たちの生き方に関わっているのだと、そういう意識をもって学んで欲しいと考えています。そして、もう一つ。大学に入ったら、今まで会ったことのない人たちと出会ってほしいと願います。これまで皆さんがいた世界は本当に小さな世界です。「絶対に友達になることはないな」「絶対に会うことはないだろう」という人達を訪ねて欲しいのです。ホームレスの人、病気の子ども、障がいを持つ人、ホスピスや高齢者施設で人生の最期を生きる人。新しい出会いを通して、皆さん自身の価値観に向き合い、生きる根拠とは何なのかを見つけてもらいたいと願っています。

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