Research 研究

人生における ”仕事” とは?

経済学部経済アナリスト・馬渕磨理子×経済学者・加藤雅俊

「始めること」「立ち上げること」を意味する「スタートアップ」。新しい事業を始めること、あるいはその企業も指し、根底には共通して、新しいことに挑戦するというマインドが流れています。そんなスタートアップについて、経済アナリストで日本金融経済研究所の代表理事を務める馬渕磨理子さんと、スタートアップを研究する加藤雅俊先生(経済学部 教授)が対談。その模様を、前後編にわたってお届けします。前編では、スタートアップ企業の魅力や志望する学生の傾向などについて意見を交わしました。

≫人生をもっと自由におもしろく。スタートアップという生き方の魅力 前編は こちら から

スタートアップは社会からの自立。自己実現の手段にもなる

加藤:いきなり自分で起業するのは難しいけれど、まずはスタートアップ企業で訓練しようという人も増えてきていますよね。スタートアップ企業を通じて自己実現をめざす傾向が日本でも強まってきているのではないかと。海外の研究では、給料が平均より低くなってもスタートアップ企業で働くことに満足している、という人が一定数いることがデータで明らかになっています。経済的なものより非経済的な動機が重視される、そんな社会的な風潮ができてきている気がします。

馬渕:資本主義社会が成熟し、特に若い世代の方が、ものを買うなど消費することで必ずしも幸せを感じるわけではなくなってきているようです。就職する場合でも、その会社の理念や達成したいゴールへの共感を大切にされている。報酬面プラスα、共感できたり夢を見られたりといったところに重きを置いている方々も増えてきているように思いますね。

加藤:就職先の企業が潰れたらどうしようといった先のことを、昔より考えなくなっているんでしょうか。

馬渕:成長をめざしている会社に、たとえば3年いたとすれば、かなりの実力がつきますよね。スタートアップ企業に入ると、ある程度のことは回せてしまうようになる。そのスキルを身につけておけば、もし倒産したとしても受け皿はあるでしょう。それぐらい気概をもって働いている方々が多いように感じています。

加藤:確かにスタートアップ企業だと短期間で鍛えられますよね。大学へ講演に来てもらう起業家の方々がよく使うのが、「自立」という言葉なんです。起業というのは、ある意味、社会からの自立だと。学生たちに対して、「あなたたちの親の世代は、就職すればそのまま生きていけたが、今はそんな時代でもない。企業に勤めたとしても、副業をしたり自分で何かしたりできたほうがいい」といった趣旨で、自立という言葉を使われています。

馬渕:社会からの自立って、まさにそうですね。親に頼らず自分の力で立つのと同じで。起業された経営者って、最もリスクをとっている方々なのでとても尊敬しています。

加藤:スタートアップは“ゼロイチ”への挑戦ですからね。私も大尊敬していますし、わくわくして楽しいだろうなという憧れもあります。

「自分だからできる仕事」にもつながるスタートアップのマインド

加藤:馬渕さんはお仕事を楽しんでいらっしゃるとのことでしたが、昔からそうでしたか。

馬渕:楽しくなるためには結構、時間がかかりましたね。若ければ若いほど、自分じゃなくてもできる仕事を担うことって多いじゃないですか。多くの職種の場合、最初は100%そうですし。

加藤:確かに新卒からしばらくは、先輩から教わったとおりに仕事をやるしかないケースがほとんどですよね。

馬渕:私の場合、経済アナリストとしてニュース記事やコラムの執筆を依頼されることがよくあるのですが、中には明日には意味のなくなるものも多くありました。月日が経つにつれて、そんな資産として残らない仕事ではなく、「自分だからできた」という仕事を残したいと思うように考え方が変わっていきました。できるだけ自分の資産になるような仕事を増やしたい。たとえば3年後も読まれるような記事を書きたい、というマインドになっていきました。

加藤:なるほど、自分の資産になるような仕事…。

馬渕:でもいきなりそうはならないので、いただいたチャンスに200%のエネルギーをかけることにしたんです。無記名のコラムであっても、5冊くらい本を読むなど、徹底的にインプットしてから書く。すると誰かが見てくれていて、「次は名前付きで自分の考えを書いてみませんか」となっていく。その繰り返しで仕事が楽しくなっていきました。

加藤:自分だからこそできる仕事を手がけられるようになると、やりがいも高まります。そのためにはまず、自分でなくてもできる仕事にも全力を注ぐことが大切だということですね。社会に出て間もない頃は、仕事にやりがいを見いだせず、つまずくことも多いでしょう。まだ社会に出ていない高校生や大学生の人たちも馬渕さんのような姿勢を知っておくと、壁にぶつかったときも踏ん張れそうな気がします。

馬渕:自分の人生で生きる時間を何に使うかを考えたとき、自分だからできることに費やせるなら幸せだと思えたんですよね。これもスタートアップのマインドに通じるかと思います。今後社会に出る人たちにとっても、仕事というより生きる時間を何に使うのかを考えることが大切かもしれませんね。

≫人生をもっと自由におもしろく。スタートアップという生き方の魅力 前編は こちら から

◆関西学院ウェブマガジン「月と窓」に、「馬渕磨理子×加藤雅俊。人生を豊かにする、スタートアップという生き方」を公開中。
こちらもぜひご覧ください。

Profile

馬渕 磨理子(Mariko MABUCHI)

経済アナリスト。一般社団法人日本金融経済研究所 代表理事、ハリウッド大学院大学 客員准教授。公共政策修士。京都大学 公共政策大学院 修士課程を修了。トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのシニアアナリストなどを経て、現在勤務するファンディーノ社で日本初のECFアナリストとして政策提言に関わる。テレビや雑誌、Webメディアや講演会などでも活躍。「日本一バズるアナリスト」と言われる。『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』『京大院卒経済アナリストが開発! 収入10倍アップ高速勉強法 』ほか著書多数。

加藤 雅俊(Masatoshi KATO)

関西学院大学 経済学部 教授、関西学院大学アントレプレナーシップ研究センター センター長。博士(商学)。一橋大学経済研究所専任講師などを経て、2010年に関西学院大学に赴任し、2018年より現職。専門は、産業組織論。近年は、スタートアップに関する実証研究に従事。アントレプレナーによる創業および創業後のスタートアップに対する支援の方向性に対して示唆を与えることをめざしている。近著に『スタートアップの経済学―新しい企業の誕生と成長プロセスを学ぶ』(有斐閣)がある。

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