Research 研究

ダイナミックに変化する現実の経済と社会に触れる

経済学部野村宗訓 教授【前編】

過去・現在、そして。これからも続く民営化・規制緩和

 皆さんは「三公社五現業」をご存じですか?「三公社五現業」は、かつて国民の生活や社会基盤を支えるために重要な役割を果たしていた組織のことです。今のJRは日本国有鉄道、日本たばこ産業(JT)は日本専売公社、NTTは日本電信電話公社という三公社でした。さらに、郵政・国有林野・印刷・造幣・アルコール専売五現業として国が運営していました。いずれも民営化や規制緩和によって現在は独立性の高い組織へと改革されています。私の研究分野は民営化と規制緩和で、電力、水道、鉄道、航空など国民生活と生産活動に不可欠な産業のあり方を調べています。民営化・規制緩和は過去の話ではなく現在も進行中です。最近では携帯電話の新会社が設立されたほか、重要な交通インフラの空港や日々の生活に欠かせない水道の運営を民間企業に任せるような改革も進められています。

「誰もが安心して利用できる」国営企業のデメリットとは何か

 では国営企業がなぜ民営化されたのかを考えてみましょう。国営企業は利益を上げなくても国から資金を得ることができるので、倒産することはありません。国営企業の独占的な地位は法律により保護されてきました。その結果として、コストを削減しようという意識が欠如し、多くの国営企業は赤字体質から脱却できない状況にありました。赤字が続いた場合には、国から補助金が出されますが、その財源は国民が支払った税金です。国営企業の赤字が増えれば増えるほど、国庫からほかの公共事業に回す資金は少なくなります。こうした弊害から、民営化・規制緩和の必要性が求められるようになってきました。

経営の効率化の陰にある、民営化・規制緩和の落とし穴

 一方、民営化や規制緩和が進むとどのような変化が起きるのでしょうか。国営企業は設備投資が過大になりがちです。国鉄時代は労働組合の力が強く、ストなどで列車が運転されないこともありました。政治家の判断によって、赤字になることが予測できても選挙区に新しい路線が建設された例もあります。民営化によって経営の効率化が図られ、利益向上などの効果が顕著に表れましたが、それに伴う問題も表面化しました。通信ではスマホ契約時に経験しているようにサービスが多様化して、料金メニューが複雑になっています。航空業界では格安運賃で集客するLCCの参入により競争が激化しているために、人口が少なくて採算が取れない地域で便数が減って利便性が悪くなっています。民営化・規制緩和後にも誰もが公平な条件でサービスを享受できる政策を考える必要があります。

「自分のカラを破る」「みんながゼミ長」がゼミのモットー

 このように民営化や規制緩和には、良い面と悪い面があります。また、近年では国や地方自治体と民間の連携を強化するなどの動きも出てきました。これらの民営化や規制緩和、公民パートナーシップの実態と課題について調べています。さらに脱炭素社会の実現に向けて、国際的に協力している欧州諸国の動きにも注目しています。一方、ゼミでは「自分のカラを破る」ことを目的に、他大学とのディベートや合同ゼミ、英語によるプレゼンテーションなども実施しています。また、卒業生をゲストスピーカーに招き、社会人としての生活体験や仕事のこなし方を教えてもらうこともあります。ゼミの運営は「みんながゼミ長」という意識をもって、全員が何らかの役割分担を通して、人間的に成長する場となっています。

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