Research 研究

スタートアップ企業で働く意義とは?

経済学部経済アナリスト・馬渕磨理子×経済学者・加藤雅俊

「始めること」「立ち上げること」を意味する「スタートアップ」。新しい事業を始めること、あるいはその企業も指し、根底には共通して、新しいことに挑戦するというマインドが流れています。そんなスタートアップについて、経済アナリストで日本金融経済研究所の代表理事を務める馬渕磨理子さんと、スタートアップを研究する加藤雅俊先生(経済学部 教授)が対談。その模様を、前後編にわたってお届けします。前編では、スタートアップ企業の魅力や志望する学生の傾向などについて意見を交わしました。

「自分のやりたいことをやる」という意識が高まっている大学生

 加藤:ここ最近、新卒でスタートアップ企業に就職する人が増えてきているんですよね。データがあるわけではなく、うちのゼミ生という非常に小さなサンプルではありますが(笑)。そのあたりも変わってきたように思いますか?

馬渕:自分の興味に沿ったスタートアップ企業に就職しようという人は増えているように感じています。私たちの会社では、学生のインターンシップをたくさん受け入れてるんですが、その多くが卒業後に正社員として入ってきてくれています。中には、大学在学中に公認会計士の資格を取るような、ものすごく優秀な人もいます。そんな人が大手監査法人や大企業に行かず、うちのプロジェクトで審査業務をやりたいと。私の学生時代ではあり得なかった動きです。

加藤:大学生を見ていると、「他人に言われてやりたくない」「自分のやりたいことをやる」という意識が、ひと昔前よりも強くなってきたのかなという印象があります。

馬渕:価値観の多様性が認められるようになってきましたよね。特にアベノミクス以降、経済が安定しているので「こちらの方向が正しい」「みんなでこちらを向きましょう」というよりは、いろんな趣味嗜好で生きられるようになってきたのかなと。「こうあるべき」「これが成功者」という一つの価値観に縛られず、個人個人が「ここで働きたい」「こういった世界観がいい」と素直に考えられるようになってきた気がします。

加藤:担当しているゼミ生を見ていても、自分のやりたいことを見つけたいからと、留学する学生も増えてきましたし、すぐに就職しない学生も少し増えてきました。昔なら、卒業したら大企業に就職しなさい、公務員になりなさい、といった風潮がありましたが、そうじゃなくてもOK、という雰囲気もなんとなく出てきたのかなと思います。

馬渕:大学を出て急に大企業で働くことに、心がついていけない人たちも一定数はいらっしゃいますからね。それも新卒3年までに辞める人が多い要因の一つだと思います。もう少し移行期が必要な人たちだっているでしょうし、すぐ社会人にならないという選択肢もあっていい。そういったことを受け容れる土壌もできつつあって、社会も少し柔軟になってきているように感じます。

加藤:おっしゃる通りです。実は私自身も、偉そうなことは言えなくて(苦笑)。大学4年生になっても就職活動をせず、大学院も落ちて浪人していましたので、学生から相談を受けても「そんなに焦らず、やりたいことを見つけたら?」といったアドバイスぐらいしかできません…。

馬渕:大学の先生にそう言っていただけるとホッとしますね。早く就職しないとダメだよと言われても、追い詰められてしまうだけですし。

加藤:まだ働いてもいない22歳に「やりたいことを見つけろ」というほうが酷かと思っています。もっと遡れば、18歳で自分のやりたい分野を限定し、大学に入って4年間学ぶ、というのもちょっと早すぎる気がするんですよね。だから個人的にも、いろいろな生き方を自由に選択できる社会に変わっていってほしいと感じています。

◆関西学院ウェブマガジン「月と窓」に、「馬渕磨理子×加藤雅俊。人生を豊かにする、スタートアップという生き方」を公開中。
こちらもぜひご覧ください。

Profile

馬渕 磨理子(Mariko MABUCHI)

経済アナリスト。一般社団法人日本金融経済研究所 代表理事、ハリウッド大学院大学 客員准教授。公共政策修士。京都大学 公共政策大学院 修士課程を修了。トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのシニアアナリストなどを経て、現在勤務するファンディーノ社で日本初のECFアナリストとして政策提言に関わる。テレビや雑誌、Webメディアや講演会などでも活躍。「日本一バズるアナリスト」と言われる。『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』『京大院卒経済アナリストが開発! 収入10倍アップ高速勉強法 』ほか著書多数。

加藤 雅俊(Masatoshi KATO)

関西学院大学 経済学部 教授、関西学院大学アントレプレナーシップ研究センター センター長。博士(商学)。一橋大学経済研究所専任講師などを経て、2010年に関西学院大学に赴任し、2018年より現職。専門は、産業組織論。近年は、スタートアップに関する実証研究に従事。アントレプレナーによる創業および創業後のスタートアップに対する支援の方向性に対して示唆を与えることをめざしている。近著に『スタートアップの経済学―新しい企業の誕生と成長プロセスを学ぶ』(有斐閣)がある。

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